4話
あの時からリオートは、ルーザの“憧れ人”となった。
竜騎士として、エリート街道まっしぐらな彼は、15才にしてアクノー城の騎士団長に抜擢され、次の一年後には、竜騎士を統率する中枢機関に栄転となったのである。
役職は何と副総統。
異例の出世に、城中のエールを受けて彼は旅立ってゆく。
宙空を飛び去って、小さく消えていった黄金竜の姿を、いつまでも見送っていたルーザなのだった。
さらに一・二シーズンがたち、微妙な感じのルーザの立場は、変わらない。
二・三か月に一度の感覚で リオートは アクノー城に帰ってくる。
そのたびに、なぜだか部屋に呼び出されて、クーの成長具合を聞かれ、報告する日々が始まった。
ルーザにとって彼と話す時間が、宝石のように貴重な時間だった。
アクロバット飛行も終わり、今晩は夜っぴて城主様方達や、竜騎士達と共に芸の大成功を祝いあうのだろう。
忙しいリオートは、ギリギリに城に入って演習をこなして当日を迎えたのだ。
(さすがに今回は、お呼びがかからないわよね・・。)
クーを抱きしめた形で、ため息がでるのはなぜだろう。
「くーちゃん、大好き。」
クーが言った瞬間、優しい笑みを浮かべて竜の頭を撫でてゆくのだった。
あの後、クーの世話をひとしきり済ませて、夕食前に北の塔にもどったルーザに、侍女長は目を見開いて
「祝いの席に出なくていいの?
戻りは御方様の就寝のお世話に、間に合えばいいのよ。」
なんて言ってくれるのだが、首を横に振る。
「私は、アクロバット飛行には、参加していませんので・・。」
と答えると、ヤレヤレと言った感じで腰に手をやった彼女は、
「気にせず御馳走を食べて来ればいいでしょうに。」
と、つぶやくものの、一度首を横にふったルーザが、すぐにも考えを変えるとは思わないらしい。
「まあ、あんたの分くらいは、ここにもあるから、サッサと食べてらっしゃい。」
促されて、ホッとなって
「失礼します。」
と頭を下げると、食堂に向かうのだった。
その後、侍女の仕事に戻ったルーザの耳に入ってきたのは、今日の北の塔の方様は、あまり調子がお宜しくないらしい話だった。
いつもより、早目の就寝の話を受けて、御方様の体を温かいタオルで拭いて、寝巻きに着替えるお手伝いをする。
いつもはきさくに話しかけてくださる御方様は、調子が悪いと聞いた通りで、一言も発せられない。
「お休みなさいませ。」
だから、御身体に負担のないよう、素早く済ませると、一言断って寝室を出てゆくのだった。
就寝お世話が終わって、後片付けを済ませると、一日の仕事は終わりだ。
「今日は飛行を見れて、よかった・・。」
一人言を言って、侍女の部屋に戻ろうとした時、廊下で呼びとめられた。
「ちょうど良かった。さっき従者が見えた所なのよ。副総統様がお呼びらしいから。部屋に来るようにって・・。
早く行ってらっしゃい。」
古参の侍女に、手を振られて頭を下げた。
あわてて北の塔を出て、イソイソと彼の居室に向かうのだった。
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